「好きなものは好きなんだから」


「〜〜っ、だから!」


「好きなことに、理由はない。恋に理屈はいらない」


端正な顔を近づけられて、そんなことを言われましても。


「……離れて」


心を許すなんて、出来るはずない。


ここは花街では無いけれど、どちらにしろ同じだ。


恋に身を焦がしたものの末路は、決まってる。


(姉様や、翠蓮はちゃんと、恋の代償を払ったもの……)


でも、杏果に払えるものなんて、何も無い。


壁に追い詰められてしまった杏果は彼を押し返し、距離を置いた。


賑わう下町の中にいることにだいぶ慣れた、今日この頃。


(小姐たちも、このお祭りを楽しんでいるのかな)


そうだといいと思いながら、やること無くて、小石を蹴る。


実は今、待ち合わせ中なのだ。


翠蓮の幼なじみ・祥基の手紙で、召集されて。


どうやら、翠蓮の為にやることがあるらしい。


立后式は成人していないから、どうせ、出られない。


それなら、と、それに参加することにしたんだ。


「作戦って、なんだと思う?」


―勿論、この男は抜きで。


「……」


無視して、その作戦というものがどういうものなのか、杏果も考えてみる。


「………あいつ、上手くやるかなぁ」


でも、その考えを邪魔するように呟いた彼は、


「おめでとう」


皇宮の方を向いて、そんなことを言う。


「……それ、新しい皇后陛下への言葉?」


思わず、そう尋ねてしまった。


翠蓮のことを御祝いしてくれているのなら、杏果は素直に嬉しかった。


彼女に手を引かれ、後宮に行ってからしばらく。


いろんなものを見て、裏切られて、悲しむ余裕もないまま、駆けつけて。


翠蓮の強さに感服すると共に、翠蓮の支えになりたいと願った。


姉様もその道を応援してくれたし、頑張っていこうと思う。