「……麗宝様、それらは全てが終わったあとに、こいつに」


「でも……」


「大丈夫。俺らの妹は強いですから」


翠蓮が尋ねたことを、そう言って遮った兄二人。


兄様達は、翠蓮を信用しているのだ。


「何度も逆境に立ち向かって、皇子までも産んだんです。苦しい道だとわかっていながら、歩いてきた。俺らは翠蓮の強さを信じていますよ」


優しい笑顔を向けられるほどに、大切に守ってきてくれた人達。


翠蓮は目を閉じた。目尻から、溢れた涙が頬を焼く。


「―さあ、泉賢妃様、露珠様、立ってください」


慧秀兄様に手を引かれ、立ち上がった二人。


寄り添ってくれる黎祥の手を握り、翠蓮は覚悟を決めた。


「ごめんなさい、翠蓮様……」


泣きながら、謝ってくる露珠様の頭を震える手で撫でて、深呼吸する。


(私の両親は、李白蓮と淑鳳雲)


―そう、自分に言い聞かせながら。


「翠蓮」


優しい声が、耳朶を貫く。


一旦踏み出せば、後戻りが出来ない場所に、翠蓮は今、立っている。


例え、最悪な事態になったとしても、


『後悔しない道を』


……志揮の言葉が、頭の中で回る。


(きっと……"そういうこと”なのだ)


黎祥は繋いだ手を引いて、翠蓮を抱きしめてくれた。


まるで、勇気を分けてくれるみたいに。


「―どんな結果になっても、私はお前を愛すよ」


優しく抱きしめられて、耳朶を撫でる声。


胸が揺さぶられて、この人が好きだと、再認識する。


大丈夫。


まだ、歩ける。


「私も……諦めないわ。貴方の横で生きる未来を」


知りたかったけれど、知りたくなかった真実。


恐ろしかったそれは、翠蓮の足を止めそうになるけど。


(―大丈夫)


黎祥がいる限り、翠蓮はまだ、歩き出せる。


あんなにも受け入れるのを恐れていた黎祥の愛が、


今の翠蓮を救う。


全身に、彼の愛が満ち渡っているのを感じながら、翠蓮は彼を思いのままに抱きしめた。