「―それで、呉徳妃を待っているの?」


「ええ。そうしたら、殿下を見かけるんですもの」


「ハハッ、だって、綺麗だったから」


―無邪気な、笑顔。


海棠を見上げて笑う流雲殿下は、端正な顔を柔和に和らげている。


「向こうにはね、百合もあるんだ」


「やけに、お詳しいのですね」


「うん。だって、革命で傷ついた庭園を手入れするように手配したのは、僕だから」


「流雲殿下が……」


「そだよ。意外だったでしょ?」


印象が違いすぎて驚くが、顔的には花が似合う人である。


「ここは、誰でも花が愛でられる庭園になっているだろう?春の庭が、宮の近くにあってよかったよ」


どれほど前の時代かは知らないけれど、時の皇帝が寵姫のために作った四季の庭園があった。


その庭園は春夏秋冬で作られており、寵姫はとても喜んだそうだ。


そのひとつの春の庭園は、春の花が存分に集められたもので、蘇貴太妃の宮である緑宸殿の近くにある。


身体が弱い流雲殿下は最近、久々に喀血してしまったらしく、外へ出られない生活を続けていると、黎祥から聞いた。


「体調の方は大丈夫ですか?」


「うん。……いつもの事だからね」


「無理をなさってはいけませんよ」


「ハハッ、気をつけるよ」


嘘っぽい笑みを浮かべた流雲殿下は、


「翠蓮、夏の庭とかは見た事あるかい?」


と、話をずらすように尋ねてくる。


「拝見したことはありません。でも、遠目でなら、冬の庭は」


「冬の庭―宵冬苑(ヨイトウエン)かぁ。雪が積もっている時は、本当に綺麗だよね」


「ですね。今度はゆっくりと拝見したいものです」


「黎祥に頼んでみるといい。……後宮がもう少し落ち着いていたら、季節の宴もあるからね」


「季節の宴ですか?」


「うん。父上の時代はよく合ってたんだ。先帝の時代は、毎日が宴だったけど」


吐き捨てるように言った流雲殿下。