「お初にお目にかかります、蘇貴太妃様」


黎祥の兄、第二皇子・流雲殿下の"母”親。


この一連の事件に、遠からずとも関わっているだろう彼女は怪我をしているようで、チラチラと見える場所には包帯が巻かれてあった。


「李家出身の侍女を従えて、さぞ、気分のいいものなんでしょうね」


嫌味たっぷりだ。


蘇家という、古くから重用されてきた家出身の娘。


「ぱっと入ってきて……愛されるなんて、羨ましいわ。一体、何をしたのかしら?」


「陛下の恩寵のおかげですわ。何かをしたなど、烏滸がましい……皇子を授かれたことなど、天寵によるものです」


「……」


探るような、目。


いつか、翠蓮がこの声で殺す相手。


覚えていよう。


年よりも若く見える、その容貌を。


流雲殿下を、育んできた人の顔を。


初めて会った時に、こんなことを思いたくはなかった。


でも、間違いなく、彼女なのだ。


犯人のひとりは。


動かぬ証拠を、見つけてしまったのだ。


彼女の宮の庭で、流雲殿下に協力をしてもらった結果、幻芳珠の花を―……。


「愛するものと結ばれることは、幸せであるな」


でも、次に放たれた言葉は愛情が含まれていて、優しく慈愛に満ちた瞳は、まるで、昔を懐かしんでいるよう。


愛されなかった事を呪うのではなくて、


懐かしいと、愛おしんでいるような。


「その幸運を、大事にせよ」


「……」


「願わくば……」「蘇貴太妃様?」


「……なんでもない。またな、」


優しい声で言われた後、彼女は翠蓮の頬に触れて。


その手は暖かく、優しかった。


言いかけた言葉の続きが気になったけれど、何も聞けなくて。


まるで、覚悟しているような瞳に、全てを気づかれていると思った。


「翠蓮」


杏果に声をかけられて、気を取り直す。


「大丈夫?」


触られた箇所を心配しているらしい二人に確認してもらって、


「大丈夫よ」


と、微笑む。


美しい迄の、清々しい花の顔が頭から離れなかった。