「―こちらは、李翠蓮様のご自宅でしょうか」


外から、呼び声がする。


結凛は感情によって溢れた涙を拭って、すぐに入口にかけていく。


「……」


いつの間にか眠ってしまっていた自分。


やっぱり、祥基は自分の父親みたいなものだと、翠蓮は笑みを漏らした。


冤罪で死んだ父。


『よしよし。どうした、翠蓮。泣いてばっかりいると、母さんに似た美貌が台無しだぞー?』


明るくて、優しい父だった。


良く、あの腕に抱かれて眠ったものだ。


「―翠蓮っ、」


懐古に耽っていた翠蓮は、結凛の声で顔を上げた。


そこに居たのは結凛と―……


「貴女が、李翠蓮様でしょうか」


見知らぬ、眼鏡をかけた文官。


そして、がたいのいい武官だった。


兄のことを、知らせに来たのかと思った。


けれど、そんな雰囲気ではなく。


「はい。私ですが……」


翠蓮が臥台から降りて、彼らの元へ行くと。


「少し、お時間よろしいですか?」


と、尋ねられた。


翠蓮は"笑顔”で頷いて、


「はい。お迎えに来て下さり、心より感謝を申し上げます」


と、口先で述べた。


それが、"笑顔”ではなかったことは、ここにいる誰もに丸わかりだった。