「命は大事にしろ、愛する人と幸せになれる道を―…願うことは簡単だけど、現実は甘くない」


志揮は息をついて。


「忘れないで。君にも、黎祥にも、遊祥にも、既に僕らの加護がある。どんな未来が訪れたとしても、君たちは命を失うことは無いだろう。でも、僕らに出来るのはそれだけだということを」


「……」


「幸せになることは簡単だよ。翠蓮と黎祥の未来は、既に完璧に用意されてるから。でも、その分、障害が多い。儀式を受ける、立后式で皇后となる、反対しないよ。でも……どうか、自分が後悔しない道を選んでね」


志揮は翠蓮の手に触れて、そう微笑んだきり、見えなくなった。


一瞬だけど、いつものこと。


振り返ると、ただ、桂鳳が微笑んでいて。


「……」


―後悔しない、道を。


桂鳳に導かれるまま、部屋を出る。


その間、志揮の言葉を、翠蓮は繰り返し、反芻していた。