「……翠蓮、」


気の使う、結凛の声。


目を覚ました翠蓮は結凛が用意してくれた菊花茶で喉を潤わせて、息をつく。


「意外と早かったね。目が覚めるの」


そう言われて、意識があった頃から、まだ、一刻も経っていないことに気づく。


「何で、結凛がここに―……祥基は?」


「黎祥さんと話に行ったよ」


瞬間、血がすごい速さで足の先まで落ちるような、そんな浮遊感に……恐怖に、襲われた。


「何をっ、話に……っ」


「翠蓮っ」


臥台から落ちそうになった翠蓮を支え、結凛は。


「引き返して!翠蓮!!」


と、言った。


「え?」


「今なら、引き返せるでしょ?お願いだからっ、黎祥さんのことを好きになっちゃだめだよ!」


肩を掴まれ、揺さぶられる。


「どうして?」


「どうしてって……だって、翠蓮と黎祥さんの未来は……」


幸せなんかじゃない、きっと、翠蓮が苦しむ結果になる、と、結凛は言う。


「……知ってるよ」


そんなことは、翠蓮が一番知っている。


それでも、好きになってしまった。


「翠蓮!」


「知ってて、好きになったから。だから、私は大丈夫」


「大丈夫って……いつも、いっつも!翠蓮はそんな言葉ばっかり!!」


手が届かないのは、百も承知だ。


それでも、それを超える想いもあるでしょう?