「子供の頃……?ここでのか?」


「そうね。辺境ではなく、後宮の」


「…………記憶に自信はないが、どうかしたのか?」


「うん……まあ……」


長椅子に腰をかけていると、そばの卓にお茶を置いて、翠蓮は黎祥の横に座り、頭を預けてくる。


「……話は大きく変わるけど、黎祥は自分がお母様に愛されていたなぁって、思うことある?」


「母上に?……まぁ、深い愛情は貰っていたな」


「お父様にも?」


「父上?……顔は覚えてないから、何も言えん。だが、私の姿が生き写しと呼ばれるくらいだから……頑張れば、思い出せそうな気もする」


どうして、そんな質問をしてくるのか、気になった。


けど、眠そうな微睡んだ顔をしている翠蓮には尋ねることすら、無粋に感じて。


「黎祥はさ、自分の後宮にいる妃の名前を覚えてたりする?過去のこととか……さ」


「過去?―まぁ、問題のあるものばかりが揃っているかもな。一通り、嵐雪が隅から隅まで調べたことは知ってる」


「…………その中にさ、向淑妃がいるじゃない?」


「ああ、淑妃……蒼星閣の」


「そう。彼女の名前、知ってる?」


「向花月(ショウ カゲツ)じゃないのか?」


眠たいのか、とろんと微睡んだ声。


「違うみたい」


「そうなのか」


まぁ、どうでもいいが。


何をしてようが、黎祥と朝廷に迷惑をかけないのなら、そんなことは……だって自分は、翠蓮がいればいいのだから。


翠蓮が入れてくれたお茶を覗き込むと、そこには毒消しの華と呼ばれる小花が浮いていて。


翠蓮の囁くような声を聞きながら、お茶を飲んでいると、今度は無視できない女の名が、翠蓮の口から出た。