「事情はわかりました。それなら、仕方ないですね」


「……え?」


「殺さず、産む選択をしてくださったこと、心より感謝致しますわ。……何より、私を遠ざけるため、貴女は私の手は借りないとおっしゃって、毒に倒れた振りをなされたのでしょう?後宮で虚言は命取りなのに……母としての鏡ですね」


翠蓮がそう笑いかけると、二人揃って呆然とした。


皇后となる人間が、こんな答えはおかしい?


でも、それは正しいことだった。


誰かを愛し、生まれた命を産んだ。


殺す選択もあったのに、彼女は自分の身を傷つけることを覚悟した上で、産んだのだ。


「……ところで、お産の時に手伝った医師がいたのではありませんか?」


そして、次。


気になるのは、そこである。


すると、翠蓮の言葉で、何故か泣き出した向淑妃の代わりに、若琳が口を開く。


「当時、後宮にいた一人の女性が……太医ではないようでしたが、とても腕が良くて……」


「女性?蘭太医ではなくて?」


「はい。けれど、彼女はその後、すぐに亡くなったと聞きました」


「―……他に知っていることはある?」


亡くなった女性―……女性太医などいない中で、蘭太医の存在だけでも違和感を感じられるのに、そんな凄腕の太医がいたのなら、何にしろ、記録は残るはずだ。


でも、残っていない……つまり、後宮にいた名もなき妃か、女官か……。


「そうですわね」


悩みこんだ若琳は少し考えた後、


「―そういえば、その方は後宮内で亡くなられたとかいう話を、聞いた覚えが……」


「後宮内って……そりゃあ、そうでしょう?後宮に入ったってことは、陛下が亡くなるまで出ていけないんだから―……」


自分で話していて、違和感。