―私の家は昔から、栄家に引けを取らぬ家として扱われてきました。代替わりすれば、一族の誰かが後宮入りするのは当たり前で、私の叔母もまた、先帝の妃だったのです。けれども、叔母は亡くなってしまって。姉がひとりいたんですが、姉もまた、人を愛し、自らの命を断ちました。美しい姉ですら、自らの思い通りにならなかった父は私を次の陛下の後宮に入れようと、必死でしたわ。でも、私には好いた殿方がいたのです。その方が、蘭怜の父親ですわ。蘭怜を見てわかるように、蘭怜の父は皇族の方でした。陛下より、少し歳上でしょうか。私は家を抜け出しては、彼と会っていました。彼といられる時間が、幸せだった……。でも、ある日、バレてしまったのです。既に、清らかな体を失っていた私は父に連れ戻され、二度と、その殿方と会うことは叶わなくなりました。相手が相手でしたから、父はその者を殺すまではしませんでしたが……話は変わって、後宮入りする時に、体の検査を受けるでしょう?―ええ、そうです。清い体であることが、後宮に入るにはとても重要なことですが、私は既に失っていましたので、後宮入りは避けられると思っていました。でも、父は相手を金で買ってまで、私を後宮入りさせたのです。最初は恨みこそはしましたが、今では良かったと思っていますわ。蘭怜を授かったことに気づいたのは、後宮に来てからでした。きっと、家にいるときに露見していたら、間違いなく、蘭怜は殺されてしまったでしょうから。


「それからというもの、私は高慢の振りをして、父が勝手に流した、陛下を恋慕っていたという噂を利用して、蘭怜を守って生き延びてきました。もしかしたら、陛下はお気づきになられていたのでしょうか。わざわざ、私にこんな宮を与えてくださるくらいですから……」


黎祥の考えはわからないが、黎祥の偶然にしろした選択が、小さな命を、ひとつ救った。