「フフッ、大丈夫です。その時は庇い立てしますよ。私が無理を言ったんだって」


「無理って……」


「だって、寂しいんですもの。どうせなら、気さくに話しかけてくれていた人達はそのままでいて欲しいというか……変わらないでいて欲しいんです。急に態度を変えられたら、それはそれで皇后になることを後悔しそう」


「……」


翠蓮の言葉に目を丸くした雪麗様は。


「―フッ、フフフッ」


可笑しそうに、笑いだして。


「後悔するの?陛下の妻になることを」


この後宮に収まる三千の美姫は全員、黎祥の妻である。


けれど、あくまでそれらは妾扱いであって、皇后というのは、彼の唯一の家族に、本当の妻になれる地位を指す。


だからこそ、一時的にでも、黎祥は雪麗様を皇后に添えなかった。―慧秀兄様と雪麗様を思って。


「……悩みはするけど、後悔はしないでしょうね。ずっと逃げ回って、抵抗してきたけど……何ででしょう。今はとても、気が晴れやかというか」


自分でもよくわからない。


でも、気分がいくらか楽で、幸せな最中にいることは間違いなくて。


「それが、愛する人と過ごす幸せというものだよ。―良かったね、翠蓮」


おめでとう!、と、そう笑顔で言ってくれる彼女もまた、兄様と幸せな人生を歩めるよう、黎祥にお願いしてみよう。


どんな罪を犯していたって、翠蓮にとっての恩人であることは違いないのだから。