「彼女は、愛を教えてくれた。生きることも、笑うことも、こんなにも幸せであったということを……久しぶりに、私は思い出すことが出来た」


「……」


「傷つけたくないのに、私には傷つけることしか出来ない。だから、君にこれを預ける」


祥基は再び、自分の手に置かれた指輪と首飾りを見た。


「これを売りに出すと、君は反逆罪に問われてしまう可能性がある。まだ、革命が終わって、二年だしね」


彼が、現皇帝だとして。


それならば。


「お前は……先帝を、討ったのか」


祥基の問いに、


「うん。沢山の人を殺したよ。今だって、この声で多くの人を処刑場送りにしている。……軽蔑するかい?」


と、黎祥は柔らかく笑った。


「いや……」


非難するつもりは無い。


彼が生きるには、この方法しかなかった。


祥基が生きるために働くように、


彼は人を殺しながらじゃないと生きられなかっただけの話。


「そっか。君は、優しいんだね。祥基」


「……」


何も、言えなかった。


この男は、祥基の想像出来ないものを背負っていると思った。


今まで漠然と当たり前のように信じていた自分の生活に対して、この生活は簡単に壊れることもあるのだという、目の前の人間の半生に自分の半生を重ね、自分はなんて恵まれているのだろうと思った。