「遊、祥……?」


皇子の名前だろうか。


そんな立派な名前を、皇子は貰ったのか。


引きこもっていたせいで、何もわからない。


杏果たちも、余計なことは言わないように気をつけておいてくれたみたいで、今の翠蓮は下町の子供よりも最近の情勢のことに至っては、無知な状態だった。


杏果が皇子を連れて出ていくと、座り込んでいた翠蓮に手を差し伸べた黎祥。


恐る恐るその手を取ると、強く握られて。


「―ずっと、考えた」


そう、言葉を始めた。


「お前に、拒絶されたあの日から」


……それは、いつのことを指しているのだろう。


下町で別れた時のこと?


それとも、貴方を愛さないと言った時?


または、この間の出産した夜―……


「…………この間の夜は、ごめんなさい。いいえ、最近のことも……避け続けたことは謝ります。皇后の役目を果たさず、本当に……」


「違う、そんなことを糾弾するために、ここに来たんじゃない」


皇子を産んだ夜、実は大切な話があるとかで黎祥が訪ねてきていた。


でも、追い返したのだ。


だって、皇子を産んだばっかりで……記憶も、室内も混乱していて、とても、陛下を迎え入れられる状況ではなかったから。


それからずっと、避け続けてきたのだから……実質、皇子を産んだ後、今が初めて、黎祥と会ったことになる。


「……じゃあ、どうして?」


事件のことについて、何も手紙は書いてない。


彼が訪ねてくる理由だって、無いはずだ。


表向きに、皇子の母は李皇后―翠蓮となっているだけで、黎祥は事件のことについて閉じこもっていると思っているはずで………じゃあ、どうして?