「何も、食べてないのね……」
「食べようとはしたわよ?……毒が入ってたから、やめたけど」
用意されていたのは、新鮮な果物。
茘枝という、冷たくて甘いもの。
とある仲の良い妃から貰ったものだったけど……果たして、その子が盛ったのか。
「毒って……」
「静かに」
「でも…っ…!」
「皇后って身分に、毒殺は付き物よ。悲しくなんてないの。ただ……ただね?」
元気だったのなら、これくらいの毒は実験とか言って、翠蓮は飲んでいたかもしれない。
でも、それが出来なかったのは、自分でもわかるくらいに体が弱っていたから。
そして、今の翠蓮の気がかりは置いていった皇子が無事、大人になれるかどうか。
ずっと、ずっと。
あの子の声を聞いた時から、引っ掛かり、巡る。
黎祥のこと、皇子のこと、そして、記憶の―……。
その時、ガタガタと扉の外が騒がしくなった。
男性の怒鳴り声が聞こえ、扉が勢いよく開く。
「陛下!なりません!!皇后様はお休みになっておられます!」
「話すことすら、私は叶わぬか?」
「そうではありません!ですが、私達は皇后様を優先させなければ……」「下がれ」
「で、ですが……」
「下がれ!!」
強く、鋭い声。
ふぇぇぇん、と、小さな声で泣く子供がこの場にとても不釣り合いで、翠蓮は帳越しに、彼を眺める。
ずっと、避け続けた愛しい人を。

