「陛下に会いたくないの?」


「……会いたいよ」


「…………じゃあ、会えばいいんじゃない?」


「でもね、会ったら、甘えちゃうの……」


甘え方はわからないのに、


会ったら、甘えてしまいそうなの。


甘えるだけの妃なんて、いるだけでお荷物。


そんな存在に、翠蓮はなりたくない。


「…………そっか」


杏果は翠蓮の呟きに、特に何も言わなかった。


何も言わず、ただ、手を握ってくれていた。


言い表せない感情は翠蓮自身にも理解できなくて、


そんなものを人に理解してもらおうなんて烏滸がましくて、


混乱する中で、今日もまた、褥に潜る。


逃げているだけだとわかっていながら……逃げるんだ。


現実と向き合いたくなくて。


(……父様が見たら、怒るわね)


基本的に翠蓮には怒らなかった父も、きっと怒るだろう。


(『現実から目をそらすな』って……おっかない)


黎祥と向き合って話す未来が遠のけば遠のくほど、別れの時はあの時よりもとても辛く悲しくなるとわかっているのに、決断できないのは、翠蓮が弱いから。


「…………杏果、灯蘭様が持ってきてくれた本を持ってきてくれる?それと、これ……もう、いらないから下げてて」


「わかったわ。……無理せずに休んでね」


「うん……」


気の抜けた返事を返すと、困ったように笑った杏果が枕元の卓の上にあった食事として用意された品々を見て、目を見開く。