「冗談でだろうけど、求婚もされて……」


「っ!」


「……お断りしたわ。だから、そんな顔をしなくて大丈夫よ。翠蓮」


「……」


杏果は冷静に、笑って。


「……ごめんなさい、祝いたいけど……」


「祝わなくていいわよ。私、特にその人のことを想っているわけでもないもの。……だからね、翠蓮」


頬が濡れる。


手の甲に落ちた滴を眺めて、嫌になる。


「ここでは誰も見てないから、泣いていいんだよ。一人で背負う必要は無いんだから」


やるべき事は沢山ある。


それなのに、溢れ出る涙はとめられない。


どこか、おかしいんだ。


最近、よく涙が出てきてしまって。


誰かに甘えたいと、願ってしまって。


そんなこと、許されないのに。


「ほら、見て?皇太后様から、贈り物」


「……」


「"元気になったら、顔を見せて”だって。混乱しているのなら、苦しくて仕方ないのなら、そのままでもいいから……自分が一番幸せになれる道を選ぼうね」


杏果の方が、年上のお姉さんみたいだ。


お姉さんといえば、最近、兄様たちに会ってないな。


そろそろ、文でも出さないと、心配されちゃうかな。


「杏果……」


「なあに?」


「ありがとう……」


自分の弱さが、嫌になる。


強くないといけないのに、


そうでないと守れないのに、


『お母様……っ!!』


―嗚呼、あの日のことが離れない。


母も、弟妹も殺してしまったのは、翠蓮なのに。


誰かに甘えるなんて、許されない。


きっとそれは、前世の自分からの戒めだ。