皇后にまで祭り上げられてしまったのなら、もう、逃げられない気がする。
果たして、その人生は翠蓮にとって幸せなんだろうか。
幸せならば、それでいいんだ。
彼女があそこでも生きていく覚悟を、決められたのなら。
決められていないのなら、戻ってくるべきだと考えてはいるけれど。
人並みをぬけ、漸く、たどり着いた診療所。
すると、そこでは戸惑い顔の手伝いさん達がいて。
あまりにも盛況となってしまった、診療所と学問所。
絶え間ない人の出入りにやっていけなくなった祥基たちは、革命、その前の戦などで職を失ってしまった人々を雇うことにした。
元の職業が商売人だったりとか、国を渡り歩く学者だったりとかしたおかげで、また、この場は盛り上がりを見せていたのだが―……。
「どうした」
ざわざわと外とはまた違う意味で落ち着かない中の奴を捕まえて尋ねると、
「祥基さん……良かったぁ、手に負えなかったんですよ」
と、元商売人がため息。
「手に負えないって……何が?」
「あの方です。急に現れたんですが……赤目って、皇族の証でしょう?ここ、皇族の御用達なんですか?」
「んなアホな」
「でも、本当に赤いんです……」
また、ため息。
一体、何があったというのか。
「―君が、ここの責任者?」
コソコソと話していると、こちらに気づいた外套の男。
髪は長く、目は赤く、そして、美形……黎祥に瓜二つな彼は、
「ごめんね、困らせてしまったかな」
と、元商売人に謝る。
「い、いえっ、そんな!滅相もない!!」
(……そんなに畏まることか?)
そう考えてしまう祥基はやはり、周囲に意外と固まっていた皇族の多さで麻痺しているのだろう。
何とも思わない。

