「……っ」
ゆっくり、ゆっくりと水を嚥下する。
すると、喉が潤いを得て、声を発した。
「ねぇ、蝶雪」
「はい?」
「……皇子、可愛かった?」
どうせもう、離れてしまう。
それなら、一度くらいは抱いておかないとね。
会える許可を得たとしても、それはきっと、頻繁ではないだろうから。
「可愛らしい御子でした」
蝶雪は翠蓮の汗を拭きながら、そう言って。
「目元は陛下に似ていましたよ」
「……目の色は?」
「目は……まだ、拝見できていません」
「…………そう」
ああ、疲れた。
やっぱり、命を生み出すことは命懸けだ。
世の中の母というものは、こういうことを経験しているのか。
心より、尊敬する。
「ねえ、名前、どうしようかな……」
体力の限界か、ひどく眠たい。
今度こそ、
今度の夢こそ、
幸せなものであればいい。
あんな、悲しい夢はもう見たくない。
「陛下と、話し合われればいいですわ。貴女は……どんなに離れてしまっても、皇子の母なのですから」
……蝶雪は、凄いね。
心を軽くしてくれる言葉、
貴女が侍女で良かったよ。

