「…………哲学だな」


「フッ、偽りの愛を口で語ることは容易い。けれど、真の愛というものは、口で語れるものではありません」


静苑は少し笑って、そう言った切り、黙り込んでしまって。


「……」


黎祥は無言でまた、月を見上げて、夢に思いを馳せる。


前世、と、呼ばれるものが、自分にはあるという。


そして、それを確認する術は旧神殿にあると。


よくわからないまま、旧神殿に訪れた日の記憶だけを返してくれた龍神。


そのはずが、はるか昔の記憶も引きずり出してきた。


目を閉じると、映像も浮かぶ。


何も覚えていないはずなのに、思い出されるその記憶は黎祥の心を締付ける。


『お前は、どんなに遠く離れていても、必ず私を見つけ出すだろう?どんな危険な目にあっても、必ず、私を守ってくれる、どんな願いも聞いてくれるんだ』


『お前は、私の大切な人。だから、失う訳にはいかない』


『お前があの人を信じているんだろ?なら、あの人を信じているお前の思いを、私は信じる!』


『ごめんね、ごめん……私を、守ってくれてありがとう』


―君が、昔、俺が愛した人。


どんなときもそばにいて、守ると誓った。


君の笑顔を、誇りを、そして、命を。


でも、君は死んでしまった。


自分の命を、俺に捧げて。


そんなことが、許されるものか。


だったら、自分も死んでやる。


そこに、一人の目を赤くした青年が寄ってきて―……。