「……何処へ?」


立ち上がると、二人が不思議そうに見てきた。


「少し風に当たってきます。呑んでいてください」


内院に向かい、月から目を離せずにいると、


「風邪をひきますよ」


と、静苑が言いながら、黎祥の肩に外衣を掛けてきた。


「……静苑」


「はい」


「お前はどんな気持ちで、妻を娶った?」


振り返ると、風が舞い上がった。


桃花が香る。


春が来ていると、感じされる。


黎祥の質問に目を見開いた静苑はひとつ息をつくと、


「そうですね。―守りたい、と、思いましたね」


と、優しい表情で答えた。


「奥方を、愛しているか?」


「愛してなければ、父を弑するなんて真似はしませんよ」


―確かに。


栄貴妃の恨みは復讐だったが、それに比べて、静苑は母のことに対する復讐と妻を守るための行動に過ぎなかった。


分かっていることなのに尋ねてしまったのは、満月の夜だからか。


「……生きることは難しいな、静苑」


「……」


「人を愛しただけなのに、どうして、こんな目に遭うんだ」


冷たい風が、頬を撫でる。


すると、背後で


「愛してしまったからですよ」


と、静苑は優しい声で答えてくれた。