黎祥は微かに笑みを漏らして、
「……昔、言われたんだ」
懐かしい過去を、思い出す。
それこそ、言った人は翠蓮の父親―叔父の鳳雲殿だった。
「『許されない恋をしてはいけないよ。誰にとっても、悲しい結末になるだけだから―……』と」
破ってしまった。
自分は、愛してしまったのだ。
下町出身で身分が釣り合わないとかの以前の問題として、同じ姓を持つもの同士の結婚は、同性婚は禁じられているのに。
知らなかったとはいえ、『許されない恋』というものを、黎祥はしてしまったのだ。
最も、その話は秘密事だが。
「…………ったく、」
その一言を言っただけだったのに、蒼月は黎祥に酌して。
「呑め」
「ん?」
「んな、悲しい目をするな。―事情があるとしても、人の親となるのなら」
「そうですよ。生まれてくる子に、罪はありません」
分かっている。
いつか、翠蓮もいなくなる。
生まれてくるその子の身寄りは、黎祥だけになるのだ。
綺麗な満月を見上げると、母と見上げた月を思い出して。
記憶の中の母はいつも笑っていて、いや、それ以前にも、こんな月を見上げたことがあって。

