「灯蘭様」


そばに控えていた天華がすぐに駆けつけて、片付けをしてくれるのを卓のそばに立って見ながら、必死に謝っている灯蘭様に翠蓮は話しかける。


「……灯蘭様は、あの夜の夢を見ることは無くなりましたか?」


「え?」


翠蓮の問いかけに戸惑いを見せた灯蘭様だったけど、片付けを終えた天華が椅子を勧めると、それに腰を下ろして。


翠蓮の話を聞こうと、向き合ってくれた。


「目撃してしまったあの日、怯えて……しばらく、眠れない日が続いていたんでしょう?」


兄様が言っていました、と、翠蓮は彼女の手を取って言う。


「ええ。最初の頃は、勿論、驚いたわ。目を閉じて、思い出そうとすれば……今も、忘れられない。暗闇の中、栄貴妃と数人が笑っているんだもの。足元で、誰かが血を流して倒れているのに」


「……その件に関しては、口外なさらなかったことを深謝致します」


「どうして、翠蓮がお礼を言うのよ?あんな出来事、口にするだけで気持ち悪さが混み上がってくるわ。……それに、栄貴妃の事情を聞いたら、公には裁けないじゃない」


「……」


「何より、貴女が私にお願いしてくれたんだもの」


灯蘭様はそう言いながら、茶器を手に取って。