「怖いんだよね」


「……っ」


「失うことを恐れていると、祐鳳が言っていたわ」


父様を失って、母様や弟妹を救うことも出来ずに、また、多くの人の死を見届けて。


「あなたは大丈夫よ。だって、雄星を救ってくれたわ」


死の床から回復してくれた、雄星様。


お礼を笑顔で言われた時は、ただ、泣いてしまった。


苦しむ彼が、とてもとても、弟妹に重なったから。


元気になっていたら、今も、って。


「私達はあなたの味方だし、貴女は皆のために、そんな身体になっても、仕事をしてくれている」


灯蘭様が目を向けたのは、翠蓮のお腹。


膨らんだお腹に宿る命が、産声を上げるまで、そう、時はない。


「翠蓮の頼みで、多くの本は持ってきたわ。一通り、祐鳳と目は通したけど……だめ。翠蓮が欲しがっていた、重要な情報は既に塗りつぶされている。今は、祐鳳が後宮内をそこはかとなく調べてくれているけど……こんなことしか、私達は出来ないけど、でも、翠蓮が一人で背負う必要は無いと思うの!」


はっきりと言いきった灯蘭様は、翠蓮を説得しようと必死なのか、立ち上がって、卓を叩いてしまって。


その反動で零れてしまった茶を見て、慌て出す。


そんな光景が微笑ましくて、翠蓮は思わず笑ってしまった。


同い年の皇女様なのに、まるで、妹のように今まで可愛がってきた。


(そういう灯蘭様だって、公主の責務を一人で背負うことなんて、どこにもないのに)


一生懸命な彼女は本当にいつだって真っ直ぐで、真っ直ぐ過ぎたから、色んなものを犠牲にすることになって―……。


(兄様はきっと、父様の言葉のせいじゃ無く、灯蘭様のこういうところを見て、守り抜こうと決めたんだろう)


放っておけない。


何でも真正面から、突っ込んでいこうとするから。