『祥基、結凛』


弱々しい声で、何度も自分の名前を呼ぶ、あの人の声を思い出す。


『色々と変なことばかり頼んで、ごめんなさいね。貴方たちだけが頼りなのよ』


『そんな、最期みたいな―……』


『自分の命の終わりくらい、自分で心得てるわよ』


この時、既にご飯を全く食べなかった白蓮。


きっと、自分の分までをあげていた翠蓮に気づいて、彼女は食べられないふりをしていたのかもしれないと今なら思うが、この時の祥基はただ、白蓮の言葉言葉を聞き逃さないようにと、ただ、必死な看病の日々を送ってた。


『そんな……』


『悲しまないで、祥基。私は本来の生命の流れに還るだけ。またいつか、必ず会えるわ』


優しかった白蓮は、優しく祥基の頬を撫でて。


『出ていってしまった、親不孝な祐鳳達が幸せそうだったら、私にも報告をしてくれる?』


泣きながら、視界はめちゃくちゃだった。


疲れ切っていた翠蓮の頭を撫でながら、話を聞くのにはかなりの体力を使った。


日々、走り回らないと手に入らなかった食料。


とりあえず、祥基も翠蓮の一家も飢えていて、それでも、他人を思いやる心を忘れなかった白蓮は憧れだったんだ。


この時、既におじさんは亡くなっていた。


どうして、先帝に殺されなければならなかったのか、理解出来なかったけど、


『あの人は間違いなく、幸せだったわ』


そう、白蓮が一筋の涙だけ流して言うのなら、もう、祥基たちの怒りはどこかへ行ってしまって、何も言えなかった。