「先に帰してよかったのか?」


「……ここにいること、バレたら極刑よ。私」


「どうして」


「後宮の人間は、後宮から抜け出しちゃいけない決まりだもの」


「じゃあ、なんで出てこれたんだ?」


翠蓮はどこか罰が悪そうに、


「誰も知らないであろう場所に、外に通じる門があることを教えてくれたの」


チラッ、と、黒髪の男に視線を送った。


「双子に教えてもろうたか?」


「うん……まさか、飛燕がこんな所に居るなんて」


「先程の、黎祥をつけたのじゃ。黎祥に記憶を返してやろうと思うての。―まぁ、もう帰ったようじゃが」


「……どうして?」


「ダメじゃった?」


その言葉に、首を強く横に振る翠蓮は。


「ありがとう……っ」


飛燕の手を握り、心からの例を述べる。


やっぱり、翠蓮もまだ、黎祥を愛しているんだろう。


どうして、一言で済む案件をこんなにも大きな問題にしているのかわからない……けど、まぁ、今の時期は仕方ないのかもしれないな。


「翠蓮、体調は?」


「大丈夫。……ごめんね、また、泣き言を言いに来て」


「いや、それは良いんだよ。お前を守ると、白蓮さんとは約束したし……にしても、何で言わねぇんだ?逃げられなくなるのが怖いのか?」


翠蓮は、懐妊していた。


勿論、黎祥との子供だ。


黎祥が話していた、両親が誰かもわからない、表向きは翠蓮が産んだことになる子供というのは、今、翠蓮の腹に宿っている子供のことなんだろう。


翠蓮は椅子に腰を下ろすと、大切そうに腹を撫でた。


そんなことをするくらいなら……黎祥の手を取ればいいのに。