「なぁ、翠蓮。お前、いつまであの男を匿うつもりだ?」


そう、祥基に尋ねられたのは、黎祥が翠蓮の家にいるようになって半年ほど経った頃のことだった。


「いつまでって……特に決めてはないけど?」


「怪我、いい加減治ってるだろーが」


そうなのだ。


黎祥の怪我はほぼ、完治した。


けれど……。


「私さ、今更、一人になる生活を思い出せないのよ」


翠蓮からは、別れなど告げられるはずもない。


ずっと忘れていた、家族の温もりを……黎祥と生活することで、思い出してしまったから。


「……だが、あの男はやっぱり、ただ者じゃねぇ」


「…………うん」


「こんな下町で、四書五経を出来るやつなんざ、官吏か官吏志望だけだぜ。それなのに、あいつの教養はまるで貴族の坊ちゃん並みだ。―いい加減、離れろ。じゃないと、お前がまた、泣く羽目になる」


祥基はずっと、翠蓮のそばにいた。


兄がいなくなった時も、


父が死んだという知らせを受けた時も、


母が病に倒れた時も、


弟妹が息を引き取った時も。


泣いた翠蓮を抱きしめて、


『大丈夫だ。俺がいる。お前はひとりじゃない』


と、おまじないのように繰り返してくれた。