「叔父上?」


「ああ、そうだ。おじさんの口癖は、『弱さや優しさ、情けは人の為ならず。けれど、それを知らないものは知らないほど、孤独で虚しい。それなら、人に優しくするんだ。愛情を、平等に注ぐんだ』……幼い頃、俺はその意味がわからなかった。そして、おじさんはその言葉を言う時は限って、片手で近所の男ども……まぁ、祐鳳とかを吹き飛ばしてた」


「……」


「稽古中の時は特に、そう言ってたんだ。今思えば、自分は皇族で生まれ、そういう生活を送ってきたんだと言っていたのかもな」


「……」


叔父上―淑鳳雲は幼い時に両親を失い、同母兄の先々帝とともに、継承権争いに巻き込まれた人だ。


付け焼き刃で身につけた剣術は、誰もを恐れさせ―……彼を、孤独にした。


「白蓮……翠蓮の母親が、翠蓮の父親にとっては、それ以外はいらないと思える愛だった」


「……」


「あー、つまり、何が言いたいかと言うとな?」


そこで、祥基の急な話の意図が分かった。


祥基は不器用なりにも、黎祥を励まそうとしていたのかもしれない。


「おじさんは孤独で、空虚だった分、別の大きな幸せを、愛を見つけられたんだ。きっと、叶うことは困難なものだっただろう。それでも、叶うことは無理だと言われた恋でも、最後まで貫いて、幸せになった。なら、お前達もできないことはないと思うが―……翠蓮が拒絶しているのなら、お前は無理強いをしないんだろう?」


尋ねられるから、黎祥は頷いて。


少し寂しいけど、それは事実だ。


「でも、愛しているんだろ?翠蓮が自分の妃にならなくても、ここに帰ってきてしまっても、ずっと、忘れられるときまで、その気持ちは捨てなくてもいいんじゃねぇのか?後悔してないのなら―……俺はその方が嬉しいよ。翠蓮の幼なじみとしてはな」


後悔はしてないけれど……捨てなくていいなんて言われてしまったら、それに甘えて、自分は死ぬまで翠蓮を忘れられない気がする。