「いつか、翠蓮がこの下町に帰ってくるとか言っているようだけど……お前はそうなって、後悔しないのか?」


「……翠蓮には、愛することをやめると言われたよ」


「んなもん、あいつの強がりだろが」


アホか、……二度目である。


はぁ?、みたいな顔をされ、黎祥は苦笑した。


何でもかんでも、翠蓮のことなら、ばっさりと言い切ってしまう祥基は何があっても翠蓮を大切に思っている。


「ったくなぁ……惚れた女のことくらい、わかれよ」


「……」


「自分の気持ちにくらい、自信を持ちやがれ。愛してんなら、愛してる、で、いいじゃねぇか。困ったことがあれば、俺らだって力になるし、誰だっけ……お前の側近だって、お前の幸せを心から願っているように見えたぞ?」


祥基の言葉で、脳裏に浮かんだのは、嵐雪だった。


「人生、楽しいことはすぐに尽きるが、苦しみは付き纏うもんなんだ。でもな、この世で、それ以外いらないと思わせてくれる愛がある。その存在は、お前にとっての翠蓮なんだろ?だったら、失わねぇようにしろよ」


「……」


「それに、何でもかんでもてめぇは背負いすぎだ。少しは、周りに不安を吐露することを覚えろ」


今度は思いっきり額を指で弾かれ……こんなこと、皇帝にできるの、この国でこいつだけだと思う。


「一人で抱え込めなくて、皇宮でも不安を吐露できないのなら、ここに来い。いつでも、話には付き合ってやるよ」


「……」


「酒でも呑みながらな」


ニッ、と、笑った祥基。


どうして、こいつはこんなにも人が出来ているのか。


「あのな、祥基」


びっくりだよ、黎祥よりも年下なのに。


「私は―……翠蓮と共に居られるだけで、幸せだったんだ」


「―……ああ」


「翠蓮の隣こそが、自分の生きる場所だと思っていた」


「………ああ」


「この想いは叶わなかったけれど、後悔はしてないんだ」


「…ああ」


「だから、翠蓮がここに帰ってきた暁は―……労ってやってくれ」


「……お前、俺に頼み事ばかりするな」


「祥基だけが頼りなんだよ」


そう微笑むと、呆れたようにため息をついた祥基は、


「―あー、そういや、鳳雲?といったか?」


と、唐突に話し出す。