「お前も、聞いたことがあるだろう。"華原の覇者”の名前くらいは……」


「それ、先々帝と語られる話じゃないか。確か……淑鳳雲?」


「それが、翠蓮の父親だったんだよ……」


考えれば考えるほど、


翠蓮が許してくれれば許してくれるほど、


自分はどんなふうに償えばいいのか、わからないんだ。


わからない、わからない。


消えてしまった記憶も、自分が何を忘れているのかも。


大切な人の取り戻し方も、


償い方も、


何もかも、黎祥は知らないんだ。


祥基もまた、翠蓮の父親を慕っていた。


誰にでも優しく、強かった彼は慕われやすくて……祥基からも罵声が飛んでくるんだろう、と、覚悟したけど。


「―はぁ、なんか、難しいこと考えてんな?」


ポンッ、と、祥基は黎祥の頭を軽く叩くだけで、ため息。


「どうせ、それを翠蓮が許したんだろ?」


「……ああ」


「それなら、気に病むことはねぇだろ?どうして、そんなに悩んでいるんだよ」


「…………もう、何もかもわからないんだ」


自分の両手を眺める。


何も掴まなかった、空虚な手。


全てを捨てて、逃げ出したいと願うくらいに、もう、どうしてあの時、大師匠の代わりに自分が生き残ったのか、分からなくなるほどに。