「駿希、そんなに怯えなくていい。大丈夫だから、楽しめ」


頭を撫でてやると、


「陛下!私みたいなのに触れたら、御手が……っ!」


穢れてしまいます、と、続ける駿希。


「何を言う。お前は大事な、私の弟みたいな存在だよ」


本当は太監など、宦官のための学校で優秀な成績を収め、長い仕事経歴を詰み、それなりに汚いことをしてからではないと、上り詰められない地位だ。


事実、後宮内では毎日、多くの宦官が死んでいる。


それは一重に、宦官以外のものが宦官を人間と考えていないからだ。


宦官制を廃止することも、黎祥が宦官たちを支援することも考えたけれど、宦官たちは後宮内でしか生きられず、朝廷の人員する儘ならぬ今のご時世では、宦官の擁護は厳しい。


とりあえず、官吏制度をどうにかして―……と思っているのだが。


(そんなことを言っている間に、人は死ぬ。命に早いも遅いもなく、何事も、"いつか”では遅い)


分かってはいるけれど、宦官がいなくなってしまったら、その代償は計り知れない―……。


「身に余る、光栄です」


「もっと言うなら、この国に住んでいる人々は皆、私の子供だ」


そう思えるよう、教えてくれたのは翠蓮だった。


駿希がくれた包子を食べながら、そう微笑むと。


「―……何やってんだ、あんた」


―久しぶりの人に見下ろされていた。