「何も知らない人間、とは、どういうことだ?」


ずっと、耳の奥で響いてる。


あの、志輝とかいう青年の言葉。


「―そのことは気にしなくても良いと思うが」


「そうなのか?」


「あやつらの悪戯を、おおかた、志輝とかが揶揄したんじゃろう?気にする方が負けじゃ。……まあ、知りたいなら、教えてやらぬこともないが……今ではない」


「なら、別のことをひとつだけ」


「?」


饅頭を飲み込んだ飛燕が、首を傾げる。


「……最近、夢を見るんだが……やはり、お前は龍神なのか?」


すると、目を瞬かせた飛燕は。


「聞きたいなら、話してやらぬことも無いぞ。そこの駿希とやらも、秋遠とやらも、悪い気はしない。話しても問題なさそうじゃ」


餡子のついた指をぺろっと舐めた飛燕。


「どこを見て、それが分かっ……」


「飛燕さん、串団子いります?」


「別の味の饅頭もあるぞ!」


「ほらな!」


……単純に、餌付けされただけではないか。


「陛下、陛下も良ければ……」


おずおずと、差し出された包子。


「毒味は、済んでます」


おどおどしがちなこの宦官は、辺境にいた頃に世話になった下男の息子だった。


貧しさがあまり、父が亡くなったあと、母に捨てられて行く宛がないとのことなので、黎祥が拾ったのだ。