【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―




「いや、違う。大丈夫だ……なぁ、翠蓮」


「は、はい?」


翠蓮は腰元に布を巻いていた。


―髪はひとつにまとめられ、とてもじゃないが、妃の格好ではなかった。


きっと、調合でもしていたんだろう。


彼女は戸惑い気味に黎祥を見上げるから、黎祥は翠蓮の肩に頭をあずける。


「……私は、何を忘れているんだろう?」


「何、とは……」


翠蓮の、鼓動が早い。


背に回された翠蓮の手は、黎祥の背を撫でる。


まだ、意識されているのだろうか。


そうであるならば、とても嬉しい。


そんな気持ちはひた隠しにして、


「少し前に、君と、誰かと、後宮の奥まった場所へ行った気がするんだ……私の気のせいか?」


尋ねると、


「っ、覚えてないの……?」


翠蓮は驚いたように声をだし、黎祥の背に這わせた手に力を込めた。


「…………誰?」


そして、彼らに問う。


「李妃様?」


「―ごめん。杏果、蝶雪、天華は中に戻っていてくれる?危ないから」


「でも……」


「何かあったら呼ぶわ。だから、お願い」


翠蓮の言葉で、中に戻って行った侍女たち。


けれど、翠蓮は黎祥を抱きしめる腕の力はゆるめることなく。