「……李妃が、懐妊したという話が広まっているのか」


「おう。まぁ、後宮ではどうか知らな―……って、おい!黎祥!?」


気がつけば、足は後宮に向かっていた。


今、敵だらけのあの後宮で―……何が目的か、あとどれくらいいるのか分からない後宮で、そんな噂が広まりなんてしたら―……翠蓮は。


「おいっ、どこに行くんだよ!?」


「うるさい!いいから、お前もついてこい!!」


「はぁ!?」


人払いされていたのか、執務室の周囲には誰もいなかった。


ただ、暁宵殿の入口にいた複数人物―……。


「―おや、久しぶりでございますなぁ、陛下」


それは、急に失踪した右大臣と、高淑太妃の兄である宰相の高瑞峰、そして、前将軍の練星哲(レン セイテツ)の姿で。


急に現れた面々に驚いている黎祥を見て、右大臣と前将軍の練星哲は笑みを深める。


「愚息がお世話になりました。―して、どこに?」


「後宮、李妃の元へ」


「御意。行ってらっしゃいませ」


姉の鏡佳を嫁がせた相手、練子龍。


その父である、練星哲。


もう二度と、皇宮に顔を現すことはないと思っていた―……。


「お前の昔なじみか」


練星哲の微笑みに促され、回廊を早足で動いていると、蒼月が尋ねてくる。


護衛もつけずに、不用心だと思われるだろうか。


でも、今は、翠蓮の様子を―……。