「……わかった、詮索も追求もしない」
黎祥は手を伸ばして、嵐雪の肩に触れた。
「だから、そんなに思い詰めた顔をするな」
母が死んでしまった時、自分が死んでしまったら、誰が泣いてくれるんだろうとか、馬鹿なことを考えた時期があった。
(きっと、嵐雪は)
昔から、黎祥の為に生きてくれている。
最期も、黎祥の為に泣いてくれるんだろう。
そんなことを考えたら、これ以上、彼に負担をかけたくないと願ってしまった。
嵐雪は顔を上げた。
その顔は、苦渋に染まっていた。
「……嵐雪」
「はい」
「お前には多くの苦労をかけてきたな」
「そのようなこと。私も、父も、あなたの為なら……」
「ああ。お前なら、そういうと思っていた。だから、これから産まれてくる"私の息子”のことも、よろしく頼む」
その一言で、嵐雪は目を見開いて。
「お前の負担を少し減らすよう、一人、秘書官を増やそう。誰がいいかな」
「陛下っ、」
「……お前を切り捨てるわけじゃないよ。お前は大事な、私の兄だ。切り捨てるんじゃなくて、大事だからこそ、信じているからこそ、この国の未来を担う皇子の教育を任せたいんだ。……頼んでもいいか?」
人員を増やすなど、そう簡単なことではない。
でも、当てはあるんだ。
これから先、家族を養わなければならないひとりの男。
信頼出来る、けっして、黎祥を裏切れない奴がいる。

