―私は、彩苑(サイエン)よ。


思い出す。


(彼女の名前は、彩苑)


じゃあ、あとの二つの名前―……。


「翠蓮、立てるか?」


「あ、うん」


「本当、どうしたんだ。何かあるのなら、話を聞くぞ」


「ううん、ごめん。なんでもないよ」


翠蓮が笑うと、黎祥は、


「そんな、紙を張りつけたように笑うのなら、笑わなくていいから」


と、言った。


「?」


「翠蓮の笑顔は好きだけど、泣きたい時は我慢をしないで」


(泣きたくなるのは、気づいてしまったから)


―叶わぬ恋をしちゃったんだね……。


(そうみたいです、彩苑さん)


「心配かけてごめんね、黎祥。でも、大丈夫!」


「本当か?」


「うん!」


(私は、黎祥が好きです)


「さっ、ご飯にしよー!」


(貴女のおかげで、気づくことが出来ました)


でも、この想いは胸の奥に。


「そう言えば、お客さんって……誰だったの?黎祥」


尋ねると、彼は笑う。


「なんでもないよ」


誤魔化すように、辛そうに。


時間切れは、もう近い。


(認められただけで、十分だ)


この想いは、翠蓮の宝物。


"龍翔(リュウショウ)”と、"黎明(レイメイ)”


この二人に、彩苑さんの想いを届ける。


翠蓮に無くすことの出来ない想いを彼女が与えてくれたように、翠蓮も返したい。


(まずは、このふたりを探さないとね)


―黎祥といられる残り僅かな時間も、大事にしながら。