「…………やはり、ありませんか?陛下の妃として、後宮に留まり続ける意思は」


何度目だろう。


何度尋ねられても、翠蓮には選べない。


自分の命はともかく、黎祥の命と自分の幸せを、天秤にはかけられない。


かけられるような、そんな勇気、翠蓮にはないのだ。


「―翠蓮、自分の不安は口に出せ」


黙りこんでいると、飛燕に言われた。


飛燕は優しさはあるが、不思議と、死んだお母様を思い出させるような瞳をしていた。


それは、そう、まるで、愛し子を見つめるような。


「…………………恋を、したんです」


言葉を、漏らした。


「え……」


「叶わない、遠い遠い恋でした」


「……」


最初は戸惑った顔を見せた、嵐雪さん。


それでも、真面目に聞いてくれるらしい。


彼の優しさに感謝しつつ、言葉を続ける。


「人通りのない道に、あの人はいました。手負いの獣のように、言うことは聞いてくれなくて」


思い出すと、笑みが漏れる。


何も知らなかったあの日々は、二度と帰ってこない。