「?、何か、ありましたでしょうか?」
「だって、貴女、噂と違い過ぎます……」
「……」
意外な返しに、目を丸くする。
「私達、宮妓にも優しくしてくださるなんて……」
宮妓―それはつまり、宮中の妓女のこと。
宮妓は宮中での宴に興を添えるために、歌い、踊り、楽を奏で、貴人の目を楽しませる。
大勢の列席者の前で日頃から鍛えている技芸を披露するのが宮妓の仕事であり、宮妓達は普段、教坊と呼ばれる後宮内の一角に住んでいる。
舞や歌、楽器などを学ぶ場所であるそこには、主に十二歳から二十五歳くらいの娘達全員が寝食を共にして、技芸を磨くべく、日々稽古に励んでいた。
そんな教坊に呼ばれ、駆けつけた翠蓮を見て、彼女たちは驚いたらしい。
何せ、この教坊は後宮内にあることもあって、男子禁制。
それでも、宴などに出て、官吏などの目に止まれば、結婚できる。
それは、相手が皇族の場合も同じであり、上手いこと、皇族に目をつけられれば、玉の輿というわけ。
けれど、彼女たちみたいな特に家名のない者達は、相手が皇族なんて稀な話だし、居住地も遠く、宮妓を疎遠にするものも多い、後宮のお妃様などとは付き合う機会はない。
それでも、聞こえてくる噂というものはあるもので。
それがたまたま、翠蓮の噂だったらしい。