(……私の望みは)


壊れてしまった流雲殿下の望むことと、同じこと。


(それは、貴方が幸せになること)


でも、それは難しいのかもしれないね。


この場所で、貴方が幸せになるには……きっと、何かが足りていないんだろうと思う。


みんな、みんな、きっと何かが足りてない。


だから、こんなにも、幸せそうに見えない。


―例え、笑っていたとしても。


果たして、どれだけ多くのものが黎祥を狙い、黎祥を傷つけ、黎祥を愛し、守り、そしてまた、黎祥の目の前で命を落としていっただろうか。


自分の無力を呪い続けて、座りたくなかった玉座に腰をかけて、自分を愛してくれた亡き人達が愛した、この国を守るためだけに、生きる黎祥。


(そんな人生、あなたは幸せ……?)


問うことは許されないし、


皇帝は人間じゃないんだから、人間の幸せを求めちゃいけない。


自然と溢れてきた涙を拭うこともせず、翠蓮はただ、考えた。


「……殿下、私も願います」


願い、全力を尽くそう。


そう言うと、流雲公子はどこか寂しげに。


「―……黎祥は、君を忘れてなんかいない。君を忘れられなくて、苦しんでる」


桂鳳の存在に驚くのも一瞬で、すぐにそう返してきた。


(貴方は、生かしてる)


無駄な、死人は出してない。


(自分のある意味に絶望して、あの日、あそこに来ていたのよね。暗殺者に狙われて、斬られたといった傷の中には……自分でじゃないと作れない傷も、沢山あった)


苦しんで欲しくない。


黎祥には、幸せになってほしい。


でも、翠蓮には黎祥を犠牲にするとわかっていて、彼の妻になる道は選べない。


彼が必ず、翠蓮を見捨てなければならない時は見捨てる、斬り捨てると、約束してくれない限り。