「何で?それこそ、本当にどうでもいいよ。言ってるでしょ?僕は黎祥が幸せだったら、それでいいんだって」
「でも、それで……辛くないですか」
「だって、死人は帰ってこない。私は母上を覚えてない」
「……」
「会いたいと願ったところで、白蓮も、母上も……もう、どこにもいないじゃないか」
その諦めの表情は、行き場のない感情を精一杯、押さえ込んでいるように見えてしまった。
だから、それ以上は言えずに。
「僕が、素直に父を恨めばいいの?何も、父は悪くないのに」
「……っ」
「先帝を罵ればいい?―死んでくれて、清々したって。あんな、醜い塊なんて……血の塊なんて、兄弟と思いたくないって。そう、言えばいいの?それとも、殺せばいい?母を追い詰めた人たちを」
「……」
穏やかな、平和主義者のような顔をしていた流雲殿下の顔色は変わり、翠蓮を問い詰める。
「教えてよ。どうすればいいの?翠蓮」
「……っ、殿下」
「何にも、興味を持たないようにしてきたんだよ。余計な事を言わないで。……今も昔も、黎祥が、灯蘭たちが笑っていれば、それでいいんだから」
すごい気迫のせいで、思わず頷いてしまう。
怖かった。
背筋が、強ばった。
怖いほどに、黎祥の幸せを願うあなたは幸せにならなくていいのか、翠蓮には疑問で仕方なかった。
でも、聞けるはずもなく。

