「ねぇ、翠蓮。僕はね、君は、黎祥の幸せの"形”だと思うんだ」


妖艶な笑みを向けられて、翠蓮が少し身構える。


油断すれば、食べられてしまいそうだった。


「母が追い詰められた末に、殺された時も……何も感じなかった。でもね、黎祥が悲しい顔をしているのは見たくない」


貼り付けられた笑みが、逆に痛々しい。


母上の話を聞いた時、少なくとも、彼は傷ついたはずだ。


泣き叫びたかったはずだ。


黎祥だって、恨みではなく……心からの、悲しみを。


それを許されない、それすらも奪ってしまう魔窟に、この後宮に、本当に何の存在価値があるというのだろう。


「どうせ、この命も、黎祥のお節介で生きているものだからね。黎祥が『死ね』というのなら、私は喜んで、この命を差し出す」


……こんなふうに、どこが歪んでいるのか、自分で気づけない子供を産んで、何になるというのだろう。


彼の壊れていきそうな雰囲気が、翠蓮は痛々しく感じられてしまった。


でも、手を伸ばして、彼を救うのは翠蓮の役目じゃなくて。


「……御母上の御命を奪われたこと、恨んでおられますか」


翠蓮は再度、尋ねた。


素直に、一言でも『恨んでる』と返してくれれば、自分が満足できたのか……それとも、救ってあげられない分、恨み言を聞いてあげたかったのかは分からない。


ただ、怖かった。


黎祥と同じように壊れていることに、自分がおかしいことに気づけていない流雲殿下が。


(泣いてもいいんだ。悲しい時は)


それを、忘れないで欲しい。


心を、願いを、殺さないで欲しい。


いなかったことにしないで欲しい。


―泣いて、助けを乞うた幼い自分を。


気怠けに首をかしげて、彼はふっと笑う。