「それからは、戦争の最前線にあいつは立ち続けたよ。自分を守って死んでしまった師を仰ぎながら、師より学んだ剣術で、先帝よりも、王らしく。人々を引っ張って、幾千、幾万の戦闘技術を誇る部族を一人で蹴散らした」


そのことからついた二つ名は、"冷血皇子”。


その名残を引きずって、黎祥は冷武帝となった。


「肉親ですら、躊躇わずに斬っていたから……不思議だね。次に会った時には、彼は血塗れで尋ねてきたんだ」


皇宮、後宮に残る者共を片っ端から、黎祥は斬った。


勿論、先帝を斬り殺したのだって……。


「最愛の母であった、彩蝶様がいた時は黎祥も笑っててね、とても幸せそうだったのに」


―その時の流雲殿下の表情は、泣き出してしまいそうで。


「これで黎祥の二つ名の理由と、僕の感情の理由はおしまいだよ。色んな方面から、あの時代のことは見れる。けれど、どちらにしても、言えることは一つだけだよね。部分甘くなってしまったもの達が、集結し、腐ってた時代が先帝の時代だ。それを繰り返さない為にも、黎祥は冷血でいる」


「……」


「悪い子ではないんだ。とても優しいんだよ。……翠蓮、それは忘れないで、君は黎祥の味方で居てあげてね」


優しい表情のまま、そう言った流雲殿下。


風が舞い、彼の美しい髪がふわりと遊ぶ。


「僕は皇位なんてどうでもいい。女だって、魅力を感じない。人が死んでもなんとも思わないし、命にさえ執着がない。本当、何もかもどうでもいいんだ。でも、黎祥のことに関しては別」


守ってくれたから。


「僕が背負わなければならなかった業を、黎祥は全て、代わりに背負ってくれたんだ。だから、黎祥のことは別として、君に願うんだよ。翠蓮」


「……」


「全身に傷を負って、毒に侵された蘇貴太妃―義母上は、今も宮で休んでる。面倒を見て、良い息子を演じるべきなんだろうけど、正直、死のうが、生きようがどうでもいいんだよね。だって、僕の大切なものを奪ったから。黎祥の大切なものを傷つけたんだから」


もう、驚くこともなかった。


彼の言葉を、雰囲気を、何もかもを、見てしまったから。


そこに嘘偽りはなく、本当に彼は求めているだけなのだ。


真実を、そして、黎祥の幸せを。


それだけ手に入れば、満足なのだ。


地位も、名誉もいらない。


黎祥が、幸せに笑っているのなら―……って。


重くも、長い、彼なりの償い方。