「その、一人の皇子というのは……」


時期的に、一人しかいない。


皇太后が、育てている皇子―……第十皇子・淑高星だ。


「……黎祥は、知っているんですか?」


同じ母から生まれた兄弟が、すぐ近くにいる。


でも、流雲殿下は首を横に振って。


「知らないよ。だって、誰も教えてないから」


「どうして……」


「自分に同母弟がいることは知っているみたいだけど、黎祥が興味があるのは、君だけだからね。翠蓮」


「……」


―何も、言えなくなってしまった。


「―……先帝を、どうして、皇太子の冊立したかの話はこれでおしまい」


固まった翠蓮を見て、笑みを深めた流雲殿下。


「さあ、次に聞きたいのは?」


そうだ。


元々、蘇貴太妃がどうして、流雲殿下を息子としたのかの理由が気になっていて―……。


「……殿下は、お母様と会ったことがなかったと、平気そうに言いましたが……」


「うん」


「悲しく、無かったんですか?」


気を取り直して、翠蓮は彼に尋ねた。


尋ねていい事なのかはわからなかったけれど、気になるのだ。


自分の出生の秘密がわからず、本当の母の顔も知らず、そこで、先々帝の病―……孤独だったであろう彼は悲しくなかったのだろうか。


翠蓮は父の訃報を聞いて、身も世もなく泣いたのに。