「大体さ、第三皇子も生まれてすぐに死んじゃって、第四皇子の母もまた、身分が低い。
なら、皇太后の第五皇子……といっても、まだ、幼すぎた。
黎祥も幼かったけれど、多分、父は自分と同じ苦労をさせたくなかったんじゃないかなと思うよ。
父自身も、幼い頃から大変だったって言うし、父の母……祖母もまた、寵姫だったが故の苦労があった。
父が大切にしていた柳皇太后と、彩蝶様に湖烏姫の目の前で祭り上げるのは、自殺行為でしょ?
そして、黎祥を皇太子にしてしまったら……湖烏姫への理由がつかなくなってしまう」
異民族だから、ダメなのだ。
その言い訳が、通じなくなってしまうということか。
だから、先々帝は皇太子を、先帝にした。
「それからすぐの事だったよ。先帝が皇太子として冊立されてから、多くの妃達は力ある湖烏姫のそばについた。勿論、寵姫の危機だ。父も彩蝶様や黎祥を守ろうと、働きかけたと思う。けれど、その矢先、父は病に倒れてね」
その流れで、皇帝の仕事をこなすことも難しくなっていった。
どんどん、湖烏姫の力が強まる。
皇太后ですら、倒してしまうほどに。
その結果、皇太后は数人の皇子達を……自分の産んだ子供を、下町へ逃がしたのだ。
生きていて欲しい、その親としての願いだけで。
「父が皇帝の座を降り、柳皇太后に彩蝶様や黎祥の追放を命じて、お隠れになったという話が後宮に広まった瞬間、先帝の母は皇太后ということになった。普通に考えれば、違うってことはわかることなのに……無力だと、黎祥たちを、自分の子供を守りきれなかったと、自分を責めていた皇太后はかなりの自信をなくしていた」
それから、朝廷は先帝の思うまま。
後宮は、湖烏姫の思うままとなった。
皇太后が立ち上がったのは、遠くから、一人の皇子が送られてきてかららしい。
元より、後宮で生きていた時も、貪欲に知識を望んでいた黎祥は彩蝶様と過ごす時間はあまりなかった。
彩蝶様が、皇帝の寵姫であることは知っていたにしろ、幼かったんだ。
細かいことも、何も知らない。
後宮内の情勢を見通して、彩蝶様も隠していたのかもしれない。

