「―翠蓮」
すると、今まで黙っていた飛燕が手を握り返してきて。
そこで、手に力が入っていたことを思い出し、謝ると。
「……これ、見る?」
同じく、そばにいた飛雪が旧神殿から持ってきたらしい、何の手も加えられていない、今の話にちょうどいい巻の、ちょうどいい頁を開いて、渡してくれた。
「ありがとう」
それを笑顔で受け取り、飛燕の手を離して、彼らの協力の元、慌てて目を通す。
「―流雲殿下」
そこで、また、ひとつのことに気づいた。
「ん?」
「……先帝と、流雲殿下には年の差がかなりあるんですよね」
「まあ……軽く、親子ほどね」
実の兄弟であるというのに、どうして、と思ってきたが、なるほど。
きっと、先々帝にとって、先帝の誕生は予想外に過ぎなかった。
彼は国を立て直すため、まだ、子を授かる気はなかったんだろう。
だって、先帝が生まれた時、皇帝になっていたにも関わらず、彼の後宮には貢ぎ物の湖烏姫と、幼い柳皇太后しかいなかったと書いてある。
彼自身に、迎える気がなかったと。
少しずつ、〇〇の妃が入宮したという情報が見えるようになってきたのは、即位から十年近く経ってからだ。
「その歴史書、良いね」
「正確みたいですか?」
「僕の記憶も曖昧だし、何も言えないけど……大体、前宰相から聞いた話ばかりだ。さすが、棟志輝だね」
感心する流雲殿下に見えるよう、翠蓮はとある箇所を指さす。
「あの、どうして、先々帝は先帝を皇太子に冊立したんでしょう?決して、長男が継がなければならないというわけでもなく、異民族の母を持つ先帝の身分は、かなり低かったはずです。それなら、貴方の方が高いのでは?流雲殿下」
「……先々帝が生きていた時、僕の産みの母は先々帝の中では、産み親はちゃんと記憶されていたからね。僕は会ったこと無かったけど、身体が弱く、臥せっていることを知っているのに、どうして、皇太子の母をさせられると思う?」
問われて、確かに、と思った。
第一皇子を差し置いて、そんなことをすれば……糾弾は全て、そちらへ行く。
ただでさえ、臥せってからも、龍炯帝は気にかけていたと言うし、それは、龍炯帝の心優しい配慮だった。

