【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―




「消されたよ」


「え……」


「燃やされたんだ。一家全部……棟家の資料庫は跡形もなく燃え尽きて、証拠も何も無かった。老いていた棟家のもの数名もまた、焼け死んだらしい」


だから、それ以上、調べようがなかったという。


「永久保存用の資料庫を燃え払ったのなら、皇宮書庫のものと、後宮書庫の歴史書を新しいものと入れ替えればいい。どうせ、大きな功績を残した妃では無い限り、歴史書に名前は残らない」


つまり……皇太后だったら、歴史書に名前は残った。


でも、湖烏姫のままだったら、何十年もその名前が歴史書に存在することは無かっただろう。


史上最悪の皇帝として晋熙帝は語られるけれども、その傍に生母の名前はない。


万一、語られたとしても、異民族出身であったのにも関わらず、それを隠して……あれ?


頭の中で情報を整理していた翠蓮は、違和感。


「流雲殿下」


「なんだい?」


「湖烏姫は先帝の産みの親であったから、大きな態度を後宮内でとっていたんですよね?」


「うん。そうだけど?」


「でも、異民族の血を引く皇子は皇帝になれないし、異民族の娘は皇后になれないでしょう。それらは国の象徴ですから」


すると、流雲殿下は笑みを深めて。


「素晴らしい洞察力だね、翠蓮」


と、褒めてくれた。


「その通りだよ。後宮内で威張っていた湖烏姫は、寵愛も権力も欲しがる人だった。だから、先帝に言い聞かせていたらしい。『後宮内では母として敬い、外では他人となれ』ってね」


「そんな」


「酷い話だろう?先帝を授かった経緯だって、酷いもんだよ。先々帝に薬を盛って、手に入れた子供なんだから」


「薬?」


「あるだろう?媚薬が」


「!」


驚いた。


そこまでするか。


媚薬を作るには、南蛮の薬草もいる。


確か……加加阿(カカオ)と呼ばれる、滋養強壮剤。


催淫剤とかも、この後宮にはあるけど……。