「先帝は、父と同じになるのを嫌っていたからね。先々帝の臣下という臣下は、処刑場送り……または、追放された」
それでも、優秀さを買われて、残った臣下はいた。
全く、先帝と言葉を交わすことのなかった臣下たちだったらしいが、それでも、先帝の目を盗んで、事情を話してくれた宰相や大臣がいたらしい。
彼らもまた、この国を憂いていた。
その中でも宰相は苦労人だったけれど、幼かった流雲殿下にも優しく、親切だったという。
「話してくれたんだよ。そしたらね、それからまもなく、宰相は死んでしまった。若かったのに、優秀で、既に追放されていた黎祥とも仲良かったのに。何の証拠もなく……消されてしまったんだ。そして、大臣達も朝廷から去った」
それが、怜世さんから習った、大臣のいない理由。
最後の希望とも言えた、彼らがいなくなってしまったせいで、皇宮には、後宮には、流雲殿下が生まれた時期を知っているもの達はいなくなってしまい、暴政は加速していったという。
「黎祥がいなくなってしまったことを惜しむ人達は、沢山いたよ。でも、先帝の前では口を噤んだ。だって、命を失いたくないから」
「それで、声を上げたのが……」
「うん。処刑されてしまった、朱家などの家だよ」
ただ、皆で笑って生きていける国を。
平和な、贅沢が出来なくても、ただ、大切な人と生きていける国を望んだだけだったのに。
「黎祥は……先帝の本当の生母である、湖烏姫のせいで追放されたんですよね?」
「そうだよ」
「でも、歴史書は皇太后が母とされていた」
「それはきっと、入れ替えられたんだ。誰かはわからないけれど、皇宮書庫と後宮書庫……そして、誰も立ち入れなかった旧神殿の中。歴史書は、そう多くない。多いと、どれが真実かわからなくなってしまうだろう?だから、先祖は棟家に歴史書の制作は任せた」
「でも、それなら、当時の様子を知っている人だって……っ!」
歴史書を書いてあるのなら、資料だって沢山あったはず。
もし、収納されているのが偽りのものだったとしても、それを確認すればいいのではないかという翠蓮の希望を、流雲殿下は首を横に振って、かき消した。

