「……長い間、一人にしてしまってごめんなさい」


翠蓮は、志揮に抱きついた。


抱きついて、泣きながら謝る。


「思い出せなくて、押し付けてしまって、ごめんなさい。約束を守り続けてくれて、この国を見守り続けてくれて、ありがとう。志揮。そして―……」


きっと、彩苑様なら、こう言ったと思うから。


「……ただいまっ!」


涙は止まらなかったけど、笑って翠蓮は言った。


挨拶くらい、笑って言わないといけないと思って。


すると、志揮もつられて。


「っ、おかえり、彩苑!」


と、笑顔で抱きしめ返してくれた。


ただ、それだけ。


人を愛したいから愛し、


守りたいから、守った。


歴史書には載らなかった、淑彩苑という一人の人間。


英雄譚ばかりある彼女もまた悩み、愛し、泣きながら、笑いながら、一歩ずつ、一歩ずつ、前に進んできたのだ。


自分の前の人生を歩んだ人間でも、別人。


例え、魂を共有していると言っても、彩苑様と蒼覇様のように、翠蓮と黎祥が愛し合う必要も無い。


別人で、別の道を歩んでいるんだから……彼らは、翠蓮と黎祥の人生には関係ない。


そう思わないと、勘違いしてしまいそうになる。


生まれた時から、自分の定められた相手は黎祥だったのではないか、なんて。


自分に都合の良すぎる、翠蓮の勝手な願いだ。