「この世界は、生きとし生けるものと死すものの数が決まっている。帳尻さえ合わせられるのなら、誰が生きても死んでも問題はないんだ」


白亜の説明に、


「じゃあ、今、僕が死んだら……この世界のどこかの死にかけた人が生きられるってこと?」


と、流雲殿下が質問して。


「どうだろう?近しいものならば可能だし、確かにそうなるだろうけど……どこの誰かわからない場合は試したことないから、わからない」


白亜は、それに丁寧に答える。


「……それで、彩苑の命を貰った蒼覇はどうしたんだ」


何かを思っている訳でもないのに、ひとりでに溢れている涙を止めようとしていると、黎祥が声を上げて。


「―死んだよ」


そんな黎祥の言葉に、優しく返したのは志揮さんだった。


「僕はね、彩苑の故郷にいた貴族の息子として生まれたんだ。武人ばかりを排出する名門だったにも関わらず、僕は生まれつき、こうして、筆を持っているのが好きでね。父からはいつも、恥晒しだと言われていた。そんな行き場のなかった僕に手を差し伸べ、才能を認め、使役してくれた彩苑。蒼覇ともよく言葉を交わして、二人が大好きだったよ。―最期の時も、ずっと、二人は泣いてくれたんだ。武術が苦手で、いつも戦場では邪魔でしか無かった僕だけど……最後は、彩苑を守って死ねた。それだけ、誇りある死だった」


誇りある死。


誰かのために、命をかけられた志揮さん。