蒼覇という人を愛した記憶が、


その時の喜怒哀楽が、


翠蓮の中で、満ち広がる。


「……彩苑を庇って死した後、どうしても、彩苑を一人にしたくなかった蒼覇に、蒼巌が力を貸したのじゃ。だから、建国した時、彩苑のそばにいたのは、蒼覇の中にいたのは、既に蒼巌と一体化しようとしていた蒼覇だった」


彩苑を愛するがあまり、死にきれなかった蒼覇は……人間という体を捨ててまで、龍に魂を委ねてまで、彩苑のそばにいようとしたということだ。


何十年越しの、たった一つの愛を、彼は貫いた。


「蒼巌は儂らの中で、一番の年長者での……よもや、誰か人間を取り込まねば、存在していられなかった」


「……っ」


話を聞いているだけで、涙が零れる。


黎祥はそんな翠蓮を抱きしめ、ただ、背中をさすって。


「蒼覇は渡りに船だった―……けれど、流石、彩苑のために人間であることをやめただけある。最期も、蒼覇は彩苑を庇い、再度死んでしまった。既に人間であることを、自分のせいで辞めてしまったことを知っていた彩苑は蒼覇に自分らしい人生を歩んで欲しいと願い、自分の命を蒼覇に讓渡する道を選んだのじゃ」


「この時点で、既に国は彩苑の決めた、唯一の彩苑の生き残りの兄弟―次代の帝が治めようとしていたからね」


だから、命を捨てても良かった。