「―その通りじゃ」
白亜に観念したのか、飛燕は翠蓮の元によってくると、翠蓮の手を取って。
「何百年も前―……この国ができた時のことじゃ。このふたりは愛し合っておったが、ちょっと、とあることで揉めての。その事で、大きな戦が起こったのじゃ」
「……それで?」
「彩苑はただ人を救うために、それだけのために、仲間とともに、国中を馬で駆け回っていた」
「……」
「救えなかった、焼けてしまった故郷の二の舞を防ぐためだけに」
―飛燕の話に、誰もが聞き入った。
黎祥もまた、無言で先を待つ。
「その大きな戦で、多くのものが死に絶えた。彩苑の仲間達も……例外ではなかった。そこのふたつの棺は、彩苑を守って死んだ二人じゃ。この旧神殿の中はもとより時が止めてあるため、彩苑と蒼覇を含む四人の体は老えておらぬが……白亜はこの神殿を守り続けてきてくれた、龍神のひとり」
「龍神……」
「本当にいたのか……」
飛燕は肩を窄めて、
「ごめんの。黙っていて」
優しい声音で、謝ってきた。
記憶は取り戻さない方がいい。
そう判断されるほど、彩苑様は困難な道を歩んだんだろう。
そして、恐らく、志揮さんというのは……仲間のひとりだった。
「志揮は翠蓮も黎祥も流雲も知っておるだろう、宵始伝の作者じゃ。二人の息が絶える代わりに、志揮は永久の命を手に入れた。色々あったんじゃが……要点だけ話すとな、彩苑はとある国の王女だったんじゃよ」
龍神に愛された、女王様。
そんな物語は、この国に生まれれば、何度でも耳にする。

